資料編



 (1)スケルトン型定期借地権マンション(つくば方式)の権利形態

@まず、借地にスケルトン構造の住宅を建設する。スケルトン構造の住宅とは、建物を長持ちさせるために、ス ケルトン(構造)とインフィル(内装や設備)を明確に分け、スケルトンは広さと耐久性を、インフィルは入居時お よび将来の変更のしやすさを重視して設計された集合住宅のことである。
A約三〇年間は、土地は借地で、建物は持家になる。毎月、地代を支払う。
B約三〇年が経過したら、建物譲渡特約(借地借家法二三条)に従って、地主に建物を売る。これによって、借 地契約は終了し、それ以降は賃貸住宅に変わる。
C住み続ける場合は「家賃相殺契約)が適用される。これは、建物の譲渡金を地主に預託し、その返済金と家 賃の一部を、その後二〇〜三〇年間(契約で決める)にわたって毎月相殺するもので、これにより、安い家賃 で住み続けることができる。
D約五〇〜六〇年の経過後は、預託金がなくなり家賃相殺契約が終了する。それ以降も住み続ける場合は、 一般の賃貸住宅として新規に契約することが必要になる。
E一方、三一年目以降に退去する場合は、預託金の残額を受け取る。インフィルは除去する必要があるが、地 主が希望すれば除去の免除や売買もある。
Fなお、地主が、三〇年後に建物の買取りを実行しなかった場合は、そのまま、約五〇〜六〇年後まで、一般 定期借地権(借地借家法二二条)が継続する。



(2)つくば方式に関する問い合わせ先

Q つくば方式に関する相談先を教えてください。
A 現在、「スケルトン定借(つくば方式)普及研究会」が中心となって、相談窓口となるセンターの設立を検討し ています。センターの発足までは、下記にお問い合わせください。

 財団法人ハウジング・アンド・コミュニティ財団 電話 03・3586・4869
 コープ住宅推進協議会関東事務局 電話 03・3490・1257
 つくばハウジング研究会 電話 0298・56・8534
 本著者の研究室(郵送に限る) 〒305 茨城県つくば市立原1 建設省建築研究所 住宅計画研究室

Q 入居の関心があるのですが、どうしたらよいでしょうか。
A 前記の「コープ住宅推進協議会」や「つくばハウジング研究会」が、入居者希望者の登録を行っています。

Q 地主として関心があるのですが、どうしたらよいでしょうか。
A 本著者の研究室に手紙でご相談いただくか、または、東京都世田谷区については、下記機関にご相談下さい。

 財団法人・世田谷区都市整備公社まちづくりセンター 電話 03・3411・6634

Q 事業企画者になりたいのですが、どうしたらよいでしょうか。
A 設計コンサルタントなど企画者としてご関心がある場合は、前記の「財団法人ハウジング・アンド・コミュニティ財団」が、事業企画者のためのビデオを作成しています。
 また、企業による研究会が「社団法人・建築研究振興協会」に設置されています。

 問い合わせ先 電話 03・3453・1281(担当、太田)

(3)マンションを建てるまでのQ&A

Q 入居者として建設に参加するには、どうしたらよいのですか。
A 事業企画者が、地主の了解を得た段階で、参加者を募集します。それに応募するのが一般的です。また、一緒に住みたい仲間が集まって、地主探しをする場合もあります。いずれも、前記の「コープ住宅推進協議会」が情報を提供しています。

Q 建設組合はどのようにして発足するのですか。
A 参加者が集まると、建設組合規約と借地仮契約に、各自が署名捺印します。これによって、建設組合が発足します。
 なお、組合発足時に一定の金額(一〇〇〜五〇〇万円くらい)を預託するのが普通です。この預託金は、組合員相互の不測の事態に対処することを目的としたもので、何ごともなければ返金されたり、各自の住宅取得費に当てられたりします。

Q 組合が発足した後で、参加を取りやめることはできますか。
A 本人の組合員の地位をそのまま引き継ぐ人(代わりの入居者)をみつければ、交代することができます。

Q 住宅取得費への融資は受けられますか。
A 住宅金融公庫の融資が受けられます。ただし、建物の建設費の八割が限度ですので、住宅取得費の二割五分程度の自己資金が必要になります。
 また、別途支払う借地の保証金については、融資が制限されています。詳しくは、各プロジェクトの事業企画者にお尋ね下さい。

Q 内装の自由設計によって、建築費は標準設計に比べてどの程度高くなりますか。
A どのような自由設計をするかによって、幅が大きいのが現実です。全体をワンルームにすれば建築費が安くなることもあります。また、造り付け家具や特注キッチンをつけると、一〇〇〇万円以上高くなることも少なくありません。

Q 建物が完成するまで、どの程度の労力や手間がかかりますか。
A 月に一回ほどのペースで、建設組合の会合があります。建物の着工前や完成前には検討課題が多くなりますので、月二回ほどになることが多いようです。
 これ以外に、自分の家の内装設計については、設計者と個別に打ち合わせます。この手間は、一戸建住宅を注文設計する場合と同じです。

Q 建設組合の発足から建物の完成まで、どの程度の期間がかかりますか。
A 一年半から二年くらいです。
 内訳は、自由設計をする期間が半年から一年です。その後、工事期間が一年ほどありますので、合計で二年弱という例が多いようです。

Q 万一、組合員が途中で死亡したりして、空き家がでた場合はどうなりますか。
A 相続人が地位を引き継ぎます。相続人がいなかった場合は、代わりの入居者を募集しますが、募集費用などは本人の財産から支払うことが必要になります。
  なお、このような不測の事態に備えるために、組合発足時に数百万円を預託するわけです。

Q 途中で事業が中止になることはありますか。
A 原則としてありません。ただし、地主を含めて全員が合意すれば組合は解散することができます。また、一部の人の都合で事業が中止になった場合は、他の人に実損を賠償することが必要になります。

(4)入居してからのQ&A

Q 居住者の権利は、どのような法律に基づいているのですか。
A 土地については、平成四年に施行された新しい借地借家法に基づいています。この法律の二二条の一般定期借地権と、二三条の建物譲渡特約付き借地権の二つを同時に組み合わせたものです。
 また、建物は持家ですので、分譲マンションと同じ権利が認められています。これは、「建物の区分所有等に関する法律」に基づきます。

Q 一般の定期借地権マンションに比べての長所と短所を教えて下さい。
A 入居者からみた長所は、@間取りの自由設計ができること、A建物の質が高いこと、B建物の取り壊し費用の負担がないこと、C借地期間の終了が近づいた時のスラム化の不安が少ないことです。
 短所は、三一年目以降、持家でなくなることです。ただし、持家のままですと、建物修理の合意形成が難しくスラム化の恐れが大きくなりますので、ここを短所とみるかどうかは考え方次第です。

Q 途中で家を売ることはできますか。
A できます。三〇年間は持家ですから、当然、中古マンションとして売ることができます。次のような手続きになります。
 最初に、地主に、家を売りたい旨を文書で伝えます。その時に、地主が優先的に買い取ることがあります。その場合の価格は原則として相場価格ですが、価格が合意できない時は、標準約款に定める予想相場価格の算出式に従います。
 地主が買い取らない場合は、自由に第三者に売ることができます。

Q 転勤などで一時的に家を他人に貸すことはできますか。
A できます。
 なお、不適当者に貸すと風紀が乱れることもありますので、居住者同士の、管理組合規約でルールを定めます。この規約は、居住者が相談して決めるものです。

Q 建物の増改築はできますか。
A 内装(インフィル)は自由に改造できます。一方の建物全体(スケルトン)は、原則として増改築できません。

Q ペットは飼えますか。
A 居住者が相談して、管理組合規約で決めます。これまでの例では、ルールを守った上で、ペットを飼えるようにしている住宅が多いようです。

Q 地代はどのように改定するのですか。
A 地代は、消費者物価の変動率に従って自動的に改訂されます。
 また、権利金や保証金がない場合には、これに代わるものとして基礎地代額を支払います。これは、原則として定額です。ただし、金利が高くなった場合には、金利に連動して引き上げられます。

Q 地震が起きて建物が壊れたらどうなりますか。
A 三〇年間は入居者の持家ですから、入居者の損害になります。その時点で、借地契約を解除することもできますし、マンションを再建することもできます。これは居住者が相談して決めることができます。
 三一年後以降に壊れた場合は、建物を地主に売っていた場合は、賃貸マンションと同じですから、地主の損害になります。持家のままであった場合は、前記の通りです。

(5)三〇年目の建物売買についてのQ&A

Q 三〇年目に建物を誰に売るのですか。
A 地主に売ります。入居時に交わす契約書に、これを特約として明記します。

Q いくらで建物を売るのですか。
A 建物のスケルトンを建てるのに必要な金額の四割です。スケルトン建築費は、だいたい建築費全体の六〜七割程度です。
 また、三〇年後にこれを算定することが困難な場合は、最初に建てた時のスケルトン建築費の四割に、三〇年間の消費者物価変動率をかけたものになります。物価に連動して引き上げられますので、それなりに高い価格になります。
ただし、建物修繕が十分に行われていなかった場合は、相当額が減額されます。

Q 三〇年目に家を追い出されることはありませんか。
A ありません。借地借家法二三条で、当初より六〇年(または五〇年)後まで賃貸マンションとして住む権利が保証されています。
 もちろん、建物を売ったお金を受け取って転居することも自由にできます。

Q 賃貸になった時の家賃はどのように決められますか。
A 家賃相殺契約により、持家の状態が続いた時とほぼ同程度の額になります。ですから、入居者からみると、三〇年目以降も費用面ではあまり変わりません。つまり、六〇年(または五〇年)間は持家感覚で住み続けることができます。
 具体的には、建物修繕費や管理費などの実績に、地主の利益(地代に相当する額)が加わった金額です。また、地震で壊れた時などの損失リスクが地主に移動しますので、その分の費用が多少加わります。
 このような家賃の決め方は、標準約款に定められています。

Q 例えば、四〇年目に転居したいというときはどうなりますか。
A 賃貸ですから、いつでも転居できます。その時には、建物を売った代金の一部が経過年数に応じて戻ってきます。
 なお、自分が造った内装は除去することが原則です。

Q 三〇年目に地主が建物を買い取らない場合もありますか。
A あります。その場合は、六〇年(五〇年)後まで、借地で持家のままになります。
 地主は、三〇年が経過してから一年以内に決めることになっています。三一年が経過すると、地主は建物を買い取る権利を失います。

Q つくば方式の仕組みを、簡略化して理解するとどうなりますか。
A つくば方式は、建物のスケルトン(構造体の部分)を六〇年(または五〇年)間利用する権利を購入し、インフィル(内装)を自由に設計して住む方式といえます。このように理解すると、一見複雑な仕組みもわかりやすくなります。

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