はじめに
マンションでありながら、家の間取りが自由に設計できる。しかも、価格はなんと分譲マンションの半額。そんな夢のようなマンションがあったら、庭付きの一戸建より魅力的だろう。
それが現実となった。平成八年夏に茨城県つくば市で第一号が完成したのである。さらに現在、東京都世田谷区の住宅地で東京第一号を建設中だ。この新しいタイプのマンションは、通称「つくば方式」と呼ばれる。つくば研究学園都市にある建築研究所の、私を含む開発チームが、都市の住宅問題を解決しようと、八年の歳月をかけて開発したものだ。
価格が安くなる秘密は、土地を期限付きの借地にした点にある。このため、最後には居住者の資産にはならない。しかし、これからの社会では、住宅の「所有」にこだわって狭い家で我慢するよりも、住宅は「利用」するものだと割り切って、その替わりに、広くて良質な家に住む方が賢いかもしれない。そのような選択にとって、つくば方式マンションは希望の星になるはずだ。
もちろん、この方式が普及するためには、土地を提供する地主にとってもメリットがなければならない。この点についても、安定した事業収益が期待でき、相続税対策もできる点で魅力的な土地活用法といえる。平成八年、つくば市内で二棟が実現して以来、大都市部の地主の共感を得て、東京を中心に早くも四棟が事業化されている。私にとっても予想外のスピードである。今後の普及が十分に期待できる兆しであろう。
ところで、つくば方式は、もともとは「スケルトン(skeleton 建物の骨組み、躯体部分)の定期利用権」を売買し、内装は入居者が自由に造るという構想から生まれたものだ。この構想には二つの理念があった。
一つは、一〇〇年以上の長い耐用性をもつスケルトン構造物の建設である。これからは、省資源の時代だ。建物のスクラップ・アンド・ビルドを繰り返す愚を避けることが大切だろう。
もう一つは、郊外への拡散を避けたコンパクトな街づくりへの誘導である。これからの高齢化社会では、徒歩で生活できる利便性の高い街が求められる。その街の中核をなすのが、安い価格で間取りが自由に設計できる利用権マンションなのである。
「つくば方式」マンションは、このような二つの理念を受け継ぎつつ、これを実用化したものだ。その意味で、単に安価な住宅という意義を超えて、将来の街と住まいのあり方を展望している。言い換えれば、住宅研究者が長年の研究蓄積に基づいて世に送り出す、住宅と都市の問題解決の切り札なのである。
本書では、つくば方式マンションとは何かに答えながら、背景にある住宅と都市の問題についても深く考えることを主題としている。
都市生活を享受する夢のマンションに住みたいと考えている皆さん、土地活用を考えている地主さん、そして、住宅と街づくりの将来に関心ある皆さん、すべての方々にとって、本書は有意義な内容をもつ。ぜひ、ご一読いただければ幸いである。
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