3 コーポラティブを成立しやすくする

土地取得問題の解決

 つくば方式は借地だ。前述したコーポラティブの問題は、土地を購入せず借地にすることによってかなり解決できる。具体的には以下の事業の流れになる。

 まず、支援専門家と地主が相談して企画を立てる。企画がオーケーならば、入居者を募集する。入居者が集まると、そこで借地契約を交わし事業開始となる。この間は、三ヶ月から半年くらいだ。つまり、土地の有効活用を考えている地主がいれば、数か月待ってもらうだけで容易に事業に着手できる。

 重要なポイントは、第一に、土地取得費への融資が不要なこと。第二に、土地を購入していないため、入居者が集まらなければ、その段階で事業を中止しても損失が少ないこと。この二つのメリットは、実に大きい。

空家リスクを低減する

 事業開始後の組合員の脱退(空家リスク)の問題も、地主の了解があれば、比較的容易に解決できる。

 まず、空家募集を行う。これと並行して、万一集まらない場合に備えて、地主経営の賃貸マンションにする計画を進めておけば万全だ。というのは、借地方式では、建設費さえ回収できれば賃貸経営が成り立つからだ。当然ながら、途中での辞退者はかなりの罰金を払う。その金額分は住宅価格が安くなるから、地主にとっても悪い話ではないのである

 しかし、さらに空家が多くなると、事業の停止もやむを得なくなる。この時の損失も、土地購入を行っていないため軽くて済む。総じて、土地を購入する従来のコーポラティブ方式に比べて、事業リスクが圧倒的に小さい。

スケルトン構造で設計の手間も軽減

 つくば方式の特徴は、スケルトン構造の建物だ。これにより、コーポラティブにおける設計者の負担を軽くし、手間と収入のバランスを取りやすくする。

 つくば方式では、スケルトンは三〇年後に地主が買い取って有効利用していく部分だ。街なみや長期の土地利用を検討して決める必要がある。このため、地主と設計者で決めることとし、入居者の意見で変更することは少ない。入居者は、各戸の間取り内装、および造園などの設計に注文を出すことになる。

 実際のプロセスでは、最初にスケルトン設計の概略が示され、それに合意してから入居者は参加を決める。このような方式でも、最も関心の高い内装・インフィルが自由設計できるため、入居者の満足度は高い。

 コーポラティブで大変なことは、複数の入居者の意見調整だ。スケルトンはみんなの共用部分ということで、これを意見調整しながら設計すると、支援専門家は神業(かみわざ)を駆使しなければならない。しかも、調整がうまくいかなかった時に悪者になるのは専門家だ。二度とゴメンだということになる。

 これに対して、つくば方式のスケルトン構造の考え方ならば、入居者相互の意見調整は最小限ですむ。このことは、入居者にとっても互いの意見調整で苦労することが減るため、気軽にコーポラティブに参加できるという大きなメリットがある。もっとも、窓や玄関ドアといった外観に影響する部分の調整や、内装で同じ部品を使えば安くなるといった調整程度は、協同作業のよさを出すために、積極的に残しておくことも一案だろう。

経費も安上がり

 このように支援専門家の負担を軽くする一方で、定期借地によって住宅価格が下がるため、専門家に支払う経費を上乗せしやすい。つまり、手間に見合った経費を払うことが容易になっている。

 支払う経費は、購入価格の一割程度になるだろう。普通の分譲マンションの経費率は二割強といわれ、それに比べれば相当低い。ユーザーにとっても、価格が一割以上安いわけでメリットが大きい。

 なぜ安くなるかというと、土地を購入してから販売するまでの金利負担がないし、売れ残りのリスク負担もない。さらに、モデル・ルームも必要ないから、販売経費も安上がりだ。これらを加味すると一割程度は妥当なところだ。

 事業支援者が、このように妥当な経費をとることができれば、コーポラティブ住宅を推進する専門家や業者もふえて、その普及も加速されるからユーザーにとっても朗報だ。つまり、つくば方式により、コーポラティブ住宅がビジネスとして成立ちやすくなる。

 こうして、居住者参加のマンション造りが普及すれば、人々は自分の暮らしにあった間取りが実現できるとともに、近隣のコミュニティの質も高まり、都市に住む楽しさが倍増するだろう。



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