標準約款 タイプV:一般定期借地権(原則無償譲渡方式)
一般定期借地権において、借地期間の満了時に建物を取り壊すことなく無償譲渡する方式です。この場合、期間満了が近づくと建物の修繕放棄が起きる恐れがありますので、それを避けるために、地主と借地人が協議して合意すれば、建物修繕の実施を行うことで借地終了時に地主が建物対価を支払うようにした点が特徴です。
(契約書に本約款を添付して使用します。試作版のため使用にはご注意下さい)
【スケルトン定借(原則無償譲渡方式)の概要は以下の通りです】
@ |
まず、借地に「スケルトン住宅」を建設します。スケルトン住宅とは、建物を長持ちさせるために、スケルトン(構造体)とインフィル(内装や設備)を明確に分け、スケルトンは広さと耐久性を重視し、インフィルは将来の変更のしやすさを重視して設計された集合住宅のことです。 |
A |
その後、約50〜60年間(期間は最初に契約書で定めます)は、土地は借地で、建物は区分所有者の持ち家になります。建物の所有者は、土地所有者に地代を払います。 |
B |
借地期間満了時において、建物は土地所有者に無償譲渡され、建物の所有者(借地人)は建物から退去します。ただし、土地所有者と借地人の間で、両者合意のもとに別途建物賃貸借契約が成立した場合は、家賃を払って住み続けることができます。 |
C |
建物の所有者は、建物修繕のために修繕費用を毎月積み立てます。 |
D |
借地期間満了前(時期に定めはありませんが5〜15年前と予想されます)に、土地所有者は借地人らに対して、建物修繕の実施を条件として、借地期間満了時に建物を有償で譲受ける旨を申し出ることができます。 |
E |
土地所有者から申し出があった場合、借地人らは、その申し出を受けて建物修繕を実施するかどうかを決めます。この場合、管理組合規約に定める建物修繕の合意要件に従って決議します。 |
F |
Dの申し出は、借地人らから土地所有者に対して行うこともできます。 |
G |
土地所有者と借地人らが、建物修繕の実施と有償譲渡の額について合意した場合、借地人らは合意した条件に基づいて建物修繕を実施し、土地所有者は借地期間満了時に合意した額を借地人らに支払います。 |
H |
前項の合意が成立しない場合は、Bの原則通りとなります。 |
一般定期借地権(原則無償譲渡方式)の解説
本方式のポイントは下記の通りである。
@ 無償譲渡において解決すべき課題
- 期間満了が近づくと建物の修繕意欲が薄れる。このため劣化した建物が地主に引き渡される恐れが強い。
- 逆に良好な状態で維持されている建物の場合は、贈与税等がかかる恐れがある。
A 検討した3つの解決案
案1.地主が建物の状態を判断し、劣化が著しい場合は取り壊しを求められる案。
- 劣化が著しいという判断が難しい。判断を巡りトラブルになる可能性が大きい。
- 取り壊しになったときに、借地人全員が取り壊し費用を負担することが困難である。
案2.建物がどのような状態であれ無償譲渡し、取壊しが必要であれば地主が行う案。
- 地主が、負担感があるとして応じない可能性が高い。
→ 地主側のインセンティブを付加することが課題になる。
案2-1.地代を高くする(地代に建物取り壊し相当分が含まれるとの考え)。
- 借地人側に修繕意欲がわかないため建物の劣化が早まる。贈与税の恐れもある。
案3.無償譲渡とするが、建物の状態をみて地主が対価を支払う案。
- 地主が対価を支払うメリットを明確にする必要がある。
期間満了の何年か前に、建物修繕を条件として地主が支払いを申し出れば、建物を良好な状態で維持し、再利用できる可能性が高まる。また、対価を支払うため、贈与税に関わる面倒を避けることができる。
B 採用した案
案2と案3の折衷とする(採用案までの検討内容と成立時要件は、付表を参照のこと)。
(1)成立条件1:地代を若干高めにする
原則取壊型に比べて、借地人に建物取壊費用の負担がない分、地代は高くすることが合理的である。期間満了時に取壊費用の半分程度に達する額を目安とすれば、借地人にとっても原則取壊型よりも得になる。
現在の取壊し費用は、坪5〜7万円。将来は高くなるため坪10万円と仮定し、その半分を地代アップでまかなうとすると、次頁の金額を地代に加算することが一案である。
- 坪5万円/0.7(専有率)/50年/12ケ月=坪120円 (金利と物価上昇率を同じと仮定)
- 加算額は、専有坪当り120円前後。100u住宅で月額3〜4千円地代に加算する。
(2)成立条件2:建物修繕を条件として借期間満了時に地主が建物対価を支払う。
- 地主のメリットは、建物を良好に維持できるため建物を再利用しやすくなり、贈与税等の問題も解決しやすいこと。また、地代を若干高くした分で建物対価を支払うと考えれば、費用の負担感はそれほど大きくはないと考えられる。
- 借地人のメリットは、地主の対価支払いがあることで、建物の修繕をしやすくなること。借地期間の相当前ならば(10年程度前ならば)、自宅を快適に維持できるため。建物修繕を実施すると考えられる。ただし、借地期間満了間近になると、修繕費の方が地主支払額より高ければ修繕する動機づけは働かない。
- 将来は分からないので、あらかじめ契約で定めるのではなく、建物修繕の実施と対価の払いのために両者が協議する手続きを定めればよいと考えられる。
<留意点>
借地人は1人ではないため合意要件を契約書で定めておくことが重要である。例えば、過半の同意があれば(大規模修繕実施の区分所有法及び管理規約上の要件に従う)、他の借地人はそれに従う旨を契約書に定めておく。
建物修繕と対価の関係については、下記の組み合わせが想定される。ただし、40年以上先のことであり、詳細は契約書には定めずに、地主と借地人が交渉することとする。
期間満了10年前 建物修繕を実施すれば、修繕費用の40〜50%の値段で地主が買い取る
5年前 建物修繕を実施すれば、修繕費用の70〜80%
2年前 建物修繕を実施すれば、修繕費用の100%以上(修繕の手間に配慮)
結論:原則無償譲渡型の契約構成として、下記を想定する
- 50〜60年後の無償譲渡を契約に定める(建物の取壊しを無しとする)。
- 地主又は借地人は、借地人らが建物修繕等を実施することを条件として、借地期間満了時に地主が建物対価を支払う旨を申し出ることができる。
- 前項に係る建物修繕の内容、建物対価の支払額、その他の条件は、地主と借地人が協議して定め、両者が書面により合意した時をもって成立する。
- なお、協議における借地人の同意は、建物修繕に係る管理組合規約の決議要件に従う。地主と借地人らの合意成立後は、全ての借地人はそれに従う義務を負う。
- 地主と借地人の合意が成立しなかった時は、1に従って無償譲渡を行う。
その他、建物に抵当権が残らないように始期付き所有権移転請求権の仮登記を行う手続きを記載する必要がある。
上記の2と3は、契約書に定めなくても地主と借地人の交渉事項であるため、必要があれば実施できる。契約上重要な点は、4の借地人側の決議要件と遵守義務である。
原則無償譲渡型において想定する地主と借地人の行動等
土地所有者からみた行動イメージ
1.借地期間満了の15〜10年ほど前とする場合は、下記の検討を行う。
- 15〜10年後に建物を再利用するかどうかのおおよその検討
- 建物状態の目視による診断
- 各専有部分の抵当権設定状況の確認
この段階で、建物が比較的良好であり、かつ再利用の意図がある場合は、借地権者に対して、建物修繕の実施と建物対価の支払いを申し出て交渉する。
2.借地期間満了の5年ほど前になる場合は、下記の検討を行う。
- 5年後の建物再利用計画(または取り壊し計画)の立案
- 建物状態の目視等による診断
- 各専有部分の抵当権設定状況の確認
この段階で、建物の取壊しを予定する場合は、そのまま行動は起こさない。
再利用を計画する場合は、借地権者に対して、建物修繕の実施と建物対価の支払い、及び期間満了後の継続居住の可否を申し出て交渉する。なお、多額の抵当権がついていると再利用の支障になることがあるので当事者と相談する。
3.借地人から修繕と支払いの申し出があった場合は、その時点で検討を行う。
注)合意成立後は、悪意ある抵当権の設定を防ぐために、始期付き建物所有権移転の登記を行うことが必要である。
借地権者からみた行動イメージ
- 2回目の大規模修繕の実施に備えて、修繕積立金は毎月徴収して積み立てる。
- 2回目の大規模修繕の実施にあたり(概ね期間満了時の5〜15年前)に、土地所有者に、対価の支払いを条件とした建物修繕の実施を申し出る。
- 地主と合意した場合は、建物修繕を実施する。この場合、管理組合規約に定める合意条件に従って決議する。
- 地主と合意できなかった場合は、その後の建物利用ができる必要最小限の修繕にとどめ、余剰の修繕積立金は、期間満了時の無償譲渡時に分配する。ただし、抵当権が残存する専有部分があった場合の処理費用が出せるように配慮する。
- 土地所有者から申し出があった場合は、その段階で協議して方針を決める。
付)無償譲渡契約及び建物対価支払の成立条件のまとめ ○はメリット、×はデメリット
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土地所有者 |
借地権者 |
借地期間満了時の無償譲渡 |
○ |
建物の再利用が可能になる。 |
× |
老朽化して再利用困難な建物を引き継ぐ恐れがある。 |
× |
建物の取壊しが必要な場合は、地主負担になる。 |
|
○ |
建物を取り壊す負担がない。 |
○ |
借地期間満了後も賃貸で住み続けられる可能性が高まる。 |
× |
期間満了が近づくと老朽化して放置された状態になりやすい。 |
|
地主と借地人の合意成立条件 |
● |
無償譲渡の契約は土地所有者に不利と考えられる。このため、地代を高くすることにより両者の利害の均衡をはかることとする。 |
● |
地代アップの額は、建物取壊しに要する費用の半分程度が妥当と考えられる(取壊し費用の全額を地代に加算すると、原則建物取壊し型と同じになり、借地権者にとってメリットがなくなるため)。 |
|
借地期間満了が近づいた時の建物修繕の実施 |
|
○ |
修繕の実施以降、良好な状態で建物に住むことができる。 |
○ |
期間満了後に賃貸で住みつつづけられる可能性が高まる。 |
× |
修繕費の負担と手間が重い。 |
|
合意成立条件 |
● |
借地権者による建物修繕は、金銭負担が生じるため実施される可能性は低い。このため、建物修繕の実施を条件として期間満了時に地主が建物対価を支払うことにより、建物修繕を促すことが要件になる。 |
● |
借地人は複数のため、建物修繕の実施は規約に定める合意条件に従う。 |
|
建物対価の支払い |
○ |
建物修繕を促すことで、良好な状態で建物を引き継げる。 |
○ |
無償譲渡に関わる贈与税等の懸念を解決できる。 |
× |
金銭負担が生じる。建物再利用の予定がなければ無駄金になる。 |
|
○ |
借地期間満了時に金銭を受け取ることができる。 |
○ |
建物を修繕する動機付けとなり、借地期間満了が近づいても建物を良好な状態に保ちやすい。 |
× |
建物修繕費の負担が生じる。 |
|
合意成立条件 |
● |
建物を再利用できる見込み(賃貸住宅需要)があること。 |
● |
建物が良好な状態で保たれている一方で、低い対価であること。 |
|
● |
建物対価の支払額が、建物修繕費に比べて十分であること。 |
● |
建物修繕の実施時期が、借地期間満了のある程度前であること。 |
|
● |
建物修繕の実施を条件として建物対価を支払うこととする。 |
● |
予想としては、借地期間満了10年前で、対価が修繕費の4〜5割、借地期間満了5年前で、対価が修繕費の7割
但し、あらかじめ合意条件を予想することは困難であり、建物修繕の実施前に交渉して決めることとする。
合意が成立しなければ、原則通り無償譲渡が行われる。 |
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備 考 |
・地主と借地人が交渉して決める必要がある事項は下記の通りである。
- 建物修繕の実施内容と実施時期
- 借地期間満了時に地主が支払う対価の額
- 合意破棄となる場合の条件(災害、修繕の瑕疵、抵当権の残存、等)
- 不履行時の取り扱い、罰則
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