第五章 スラム化を防ぐ知恵
1 マンション老朽化とは何か
長持ちする建物の大切さ
過去に大量に建てられたマンションは、ほぼ三〇年で寿命が尽きてしまうという説がある。その理由は、コンクリートの工事が雑だったり、建物の修繕がしっかりと行われていなかったり、さらに、面積が狭くて生活様式の変化に合わせた改造ができなかったりするためだ。
しかし、あれほどの金額と資源をかけて建てたマンションが、わずか三〇年の寿命とはショックだ。これからは、省資源や省エネルギーの時代だ。一度建てた建物は、一〇〇年以上使い続けることが必要だろう。
ヨーロッパでは、二〇〇年たったアパートはごく普通にみられる。日本では地震があるため、そこまでは難しいかもしれないが、せめて一〇〇年のマンションは当たり前のように実現する必要がある。それでも、資源の無駄づかいは半分に減る。
このことは、マンション購入者にとっても重要な問題だ。やっとローンを払い終わったと思ったら、また建替えの費用を調達しなければならない。その時に老後を迎えていれば、お金の負担は容易ではない。
これからのマンションは、一〇〇年は使えることが必要だ。つくば方式マンションの秘密の一つも、そのような長持ちする建物の造り方にある。
以下、長持ちするマンションのあり方をじっくりと考えてみよう。多少専門的なところもあるが、マンション生活を選択しようとする向きには、読んで損はない。
マンション建替えに学ぼう
戦前に建てられた古いマンションの代表に、同潤会のアパートがある。同潤会というのは、大正一二(一九二三)年に起きた関東大震災後の復興を目的とした機関だが、現在の住宅都市整備公団のようなものと思えばよい。日本で初めて本格的に鉄筋コンクリート造のアパートを二〇〇〇戸以上造ったことで知られている。東京原宿・表参道の青山アパートもその一つだ。
当初は賃貸だったが、第二次世界大戦後に、ほとんどが居住者に払い下げられた。すでに建てられてから七〇年以上が経過しており、建替え事業が終っているか進行中かどちらかだ。
どこのマンションでもそうだが、建替えには賛成派と反対派がいる。この二つの立場で、マンションの老朽化の見方が違う点がポイントだ。
賛成派の言い分をまとめるとこうなる。
「すでに七〇年が経過して建物が老朽化している。住宅も狭いし、改装にも費用がかかる。それに、建て替えると高層化で面積が増やせるので、余った面積を売れば、みんなの費用負担はわずかで済む」
これに対して反対派は、「建て替えて高級住宅になってしまうのは嫌だ。建物はまだまだ使えるじゃないか」。
ある団地の反対派が、建築専門家に鉄筋コンクリートの老朽化を調べてもらったそうだ。結果は、まだまだ十分な強度があり、住むのに問題はないということだった。昔の鉄筋コンクリートは分厚くて丁寧に造られているから、高度成長期のそれとは質が違うのだ。それで、また話がややこしくなり、意見が食い違うことになる。
この話は、私たちに、マンション建替えの大変さと同時に、老朽化とは何かということを改めて考えさせてくれる。
マンションの寿命を決めるのは何?
老朽化には三つの要素がある。
一つ目は、構造的老朽化といって、建物の構造体そのものが劣化して崩れてしまうことだ。崩れないまでも、地震に耐えられなくなってしまうと寿命が尽きたということになる。
二つ目は、機能的老朽化。つまり、使いにくいということだ。住宅が狭いとか、洗濯機の置き場がないというのは、この機能的老朽化にあたる。
三つ目は、経済的老朽化だ。修理するより建て替えた方が安上がりだというのは、経済的寿命が尽きたということになる。
建替え賛成派は、機能的および経済的な老朽化に着目する。建て替えた方が近代的な家に住めるし、金銭的にも得だというわけだ。反対派はというと、構造的な老朽化に着目して、まだ住めるから大丈夫だということになる。
同潤会アパートに限らず、ほとんどの場合、このように老朽化をめぐって見方が対立し、意見がなかなかまとまらない。
過去、日本では四〇棟あまりの老朽マンションの建替えに成功しているが、そのほとんどが構造的には問題がなかった。使いにくいとか、出費なしで新築できるといった、機能的および経済的老朽化によるものだった。
このことは、長持ちする建物の条件として、いかに機能的・経済的老朽化を防ぐことが大切かを教えてくれる。寿命一〇〇年のマンションを実現するには、三つの老朽化の要素にバランスよく対処することが重要だ。
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