2 構造的寿命を延ばす

鉄筋コンクリートの劣化

 まず、すべての基礎として、構造的な寿命を一〇〇年に延ばす必要がある。

 日本では、ほとんどのマンションは鉄筋コンクリート造だ。ヨーロッパのレンガ造や石造と違って、鉄はいつかは錆びる。しかも、コンクリートの中に鉄筋があるため、交換することが難しい。結局、鉄筋が錆びた時が建物の構造的寿命になる。

 では、何でヨーロッパのようにできないかというと、それは地震があるからだ。レンガ造や石造では地震に弱い。だから鉄筋を入れる。

 一昔前までは、鉄筋コンクリートは石造と同じで、半永久的にもつと信じられていた。しかし、最近では寿命があることを多くの人が理解するようになった。重要なことは、その寿命をできるだけ延ばす努力だろう。

 ちょっと専門的な話に耳を貸して欲しい。

 鉄が錆びるのは、水や酸に触れる時だ。これに対して、コンクリートはアルカリ性だから、コンクリートがしっかりしていれば、鉄は錆びない。しかし、コンクリートは表面から徐々に雨水や空気中の二酸化炭素と反応して、アルカリ性から中性に変わる。いつかは、これが鉄筋に達する。

 また、コンクリートは工事をする時に水を加えて液状にする。これで好きな形に整形するわけだ。しかし、水を多くすると完成後に水が蒸発する。そこでコンクリートが縮んだり亀裂が入ったりする。この亀裂から雨が入り込んで鉄筋におよぶと危ない。

 このようなことが、構造的寿命を短くしている。

鉄筋コンクリート造の寿命を延ばす条件

 構造的寿命を延ばすには、次のことが大切になる。

 一つは、鉄筋をできるだけコンクリートの表面から離すこと、つまり、奥に入れることだ。そうすれば、中性化が鉄筋に達するまでに年月がかかる。これを「かぶり厚」という。通常は三センチメートルくらいだが、これを深くすればさらに寿命は延びる。

 二つ目は、コンクリートの性能を上げて、緻密なコンクリートにすることだ。こうすれば、中性化も遅いし収縮も起こりにくい。それには、水を加える量を減らすことが早道だ。もっとも、水を減らすと、工事の時、コンクリートの流れを悪くし工事に手間がかかる。多少のコスト・アップは仕方がない。

 先の同潤会アパートは、日本で最初のコンクリート造ということで、実に丁寧に工事が行われている。それで、七〇年たってもしっかりしていたのである。

 三つ目が、コンクリートを守る外壁や屋根を大切にすることだ。仮にコンクリートが中性化しても、鉄筋が水や雨に触れなければ問題はない。だから、外壁や屋根の仕上げを工夫して、コンクリートを雨や結露から守ることが大切だ。

 四つ目が、コンクリートに亀裂ができたら早めに補修したり、コンクリートを守るタイルや塗装などの仕上げを定期的に修理することだ。つまり、建物の維持管理が大きな役割を果たす。これが円滑に実行されるには、修理費の積み立てはもちろんのこと、普段の管理組合の活動が大切になる。

 この他に、コンクリートに海砂を混ぜて塩害を引き起こしたという事故が一昔前にあったが、こんな欠陥工事がないことがすべての前提だ。

 以上がしっかりと実行されていれば、寿命が三〇年ということはない。構造的には一〇〇年以上は十分に大丈夫なのである(注9)

エッフェル塔はまもなく一一〇歳

 さらに、コンクリートではなく、鉄を主体にした構造にも可能性がある。鉄が外に露出していれば、錆止めの塗装をやり直すこともできるし、場合によっては劣化した部材を交換することもできるからだ。また、ステンレスなどの錆びにくい鉄もある。パリのエッフェル塔が一八八九年完成だから、鉄そのものの長寿命が証明されているわけだ。



 最近の注目させる技術としては、柱に鉄のチューブを使い、その中にコンクリートを詰めるというのがある。こうすれば、コンクリートは空気や雨水に触れないから中性化しにくいし、一方の鉄は塗装を定期的にやり直すことができる。鉄筋コンクリートの逆の発想といってよいだろう。事務所ビル建築に使う例が増えてきたが、いずれマンションにも普及するかもしれない。

 いずれにしても、省資源時代には、いろいろな工夫によって構造的な寿命を延ばすことが必要だ。加えて、このことは、マンション購入者にとっても、老後の安心を得るために大変重要なことである。


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