3 機能的・経済的寿命を延ばす

住み心地が長寿の秘訣

 構造的には一〇〇年もたせることは可能だとしても、その寿命をまっとうするには、機能的および経済的老朽化を避ける方法が必要になる。これが、実は最も難しい。

 今から三〇年前を思い出して欲しい。その頃のアパートといえば、五〇平方メートルもあれば家族で住むには十分だった。それに、洗濯機置き場はなかったし、風呂は町の銭湯ということで風呂なしのアパートもみられた。当時は、それで十分だったのである。

 しかし、現在では、五〇平方メートルといえば、狭くて永住できる代物ではない。洗濯機置き場や風呂がないのでは、ほとんど住宅としての商品価値を失っている。つまり、機能的に老朽化しているのだ。

 では、内装を改修して、現代の生活様式に合うようにしたらどうか。隣り合う二戸をつなげれば、大きな住まいができ、風呂や洗濯機置き場もできる。しかし、そのような大改造をしようと思うと、新築の半分以上の費用がかかる。さらに、二戸をつなげたため不自然な住宅になる。決定的なのは天井の低さ。こればかりは、どうにも改造しようがない。新築の半分以上の費用をかけて改修しても、せいぜいこの程度の仕上がりでは、少しお金を足して、一気に新築した方がよいという気になる。結局、機能的老朽化を解決しようとすると費用がかかりすぎる。これは、経済的老朽化に陥っているということだ。

広いことがすべての基本

 では、このような老朽化を避けるにはどうしたらよいのだろうか。

 基本は、まず住宅が広いことである。

 永住できるマンションの目安は、最低で八〇平方メートルは必要だろう。できれば、一〇〇や一二〇を標準と考えたいところだ。でも、そのような広さは高くて買えないし、単身者だったら五〇平方メートルでも十分かもしれない。

 ここで、注意したいことは、建築構造から規定される最大面積は、実際に利用する面積とは違って構わないということだ。わかりやすくいえば、一〇〇平方メートルの空間があって、これを二つに分けて五〇平方メートル二戸としてもよい。こうしておけば、将来必要ならば、それほど費用をかけないで簡単に広い住宅に改装できる。

 このような建築構造をとっておけば、一〇〇年という長い年月の中でも、機能的な老朽化を起こすことなく使い続けることができる。

「階高」がとても重要である

 広さよりも重要なことは「階高(かいだか)」である。

 階高という言葉について、ぜひ、知って欲しい。階高とは、マンションの一階当たりの高さのことだ。天井高とは違う。天井の高さは、室内設計によって自由に変えられる。しかし、階高は、絶対的なもので改造しようがない。マンションの本質は、天井高ではなく、階高である。

 昔のマンションの階高は、二・六メートル程度だった。コンクリートの厚さを引くと、約二・四メートルの高さが自分の家の空間だ。これでは、床を二重にして、床下にパイプを通そうにも低くてできない。最近はやりのバリア・フリー(barrier free 高齢者対応)にするために床の段差をなくそうとしても、二重に床が張れる階高がないとダメである。最近のマンションでも、せいぜい二・八メートル程度だが、これも、将来の改造時には制約が大きい。できれば三メートルはとりたい。理想は三・二メートルを超えることだ。そうすれば、オフィスに改造することだって容易になる。

 これからのマンション選びでは、階高に注目することが重要なのである。

設備の交換が容易になっているか

 もう一つの重要なことは、設備の交換への配慮だ。エレベーターや水道ポンプ、給排水パイプ、バス・ユニットなどは、建物の構造体よりも早く老朽化する。だいたい一五年後から三〇年後にかけて、次々と交換の時期がやってくる。

 それが簡単にできるようになっていないと、長持ちするマンションとはいえない。さらに、簡単に交換できるだけでなく、その時代に相応しい新しい設備に更新できるようなスペースの余裕がないといけない。

 昭和四五(一九七〇)年頃までのマンションは、パイプが建物の壁や床に埋め込んであることが多かった。これでは、交換する時には壁や床を壊さなければならない。これは、大変なだけでなく費用がかかる。つまり、経済的老朽化を引き起こす。さすがに最近は、このような設計はなくなったが、それでもコスト効率優先で、将来の設備の交換をどうやってやるのかと首を傾げることも少なくない。

 マンション業者の一部には、三〇年で建て替えるのだからパイプ類の交換はなしにして、できるだけ安上がりな設計にするという業者がいる。しかし、建替えがスムーズにいかなければスラム化を引き起こすし、省資源化にも逆行している。設備類は、すべて容易に交換できるように配慮した設計にすることが、長持ちする建物の絶対条件である。



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