5 三〇年後の中古価格は?

建物価格を構成する二つのパート

 三〇年後の建物価格は幾らになるのだろうか。

 これに答えられる専門家はいないだろう。従来の中古マンションでは、新築マンション価格や土地価格が目安となり、建物の評価などいい加減だった。しかし、定期借地権の建物となると土地価格はゼロだ。そうすると、建物の質を正確に評価しなければならなくなる。これは非常に良いことだ。建物を長持ちさせる時代を迎えるためには、中古住宅において、建物の質をきちんと評価し、よく手入れされた建物は高いという認識が定着することが不可欠だからだ。

 さて、マンションの価格を正確に評価するためには、建物を大きく二つの部分に分けることが必要だ。

 まず、スケルトンの部分である。これは、一戸建でいえば、土地にあたるところだ。住宅の広さや階高などの基本性能に、筑後年数や維持管理の状態が加味されて決まる。多くの人が、だいたい合意できる価格が設定される。

 もう一つは、間取りや内装、つまりインフィルの部分だ。これがやっかいである。例えば、一〇〇〇万円かけて造っても、それが買い手の好みに合わないものだったら、無償でもいらないということになる。逆に、好みにピッタリだったら、一〇〇〇万円以上払ってもよいと思うかもしれない。つまり、個人によって評価がばらつく部分なのである。

つくば方式では三〇年後のインフィルは0円

 自由に市場で売買する場合は、最も内装・インフィルを高く評価してくれる人に売ればよい。しかし、建物譲渡特約では、買う人は地主と決まっている。そうすると、インフィルに価格をつけるのは極めて難しい。

 そこで、つくば方式では、インフィル価格は0円と割り切る。しかも、正確にいえば、インフィルを除去する費用が必要だから、その分マイナスになる。このようにすると、一見、居住者に不利にみえる。しかし、次のように考えると、この方が合理的であることがわかる。

 もし、価格をつけると、地主は、その内装・インフィルを好む次の入居者をみつけなければならない。これは大きな負担だから、次のように言うはずだ。「インフィルを買い取る代わりに、間取りは万人向けの標準的なものにしてくれ」と。

 これに対し0円と割り切れば、三〇年間は自由に設計し、リフォームする権利を得る。仮に標準的な間取りで我慢しても、三〇年後のインフィルの買取り価格は限りなくゼロに近づく。それならば「自由」を選んだ方が絶対に得だ。

 そして、例えば一〇年後に転居することになったら、その時は地主ではなく、一般市場で売るから、最も高い値段をつけてくれる人に売ればよい。さらに、三〇年後になって、地主がその内装を使えると思えば、除去費用を免除したり、一定の価格で買い取ることもありうるだろう。

 内装・インフィルは、0円と割り切るのが合理的なのである。

三〇年後のスケルトン価格は再建築費の四割

 一方のスケルトンについては、長持ちする建物部分であり、十分に高い価格をつけることが合理的だろう。

 つくば方式では、三〇年後の価格を「スケルトン再建築費の四割」と決めている。四割という比率は、コンクリート建物の償却期間を六〇年として、ちょうど真ん中だから妥当な数字だ。

 ただ、注意して見て欲しい。「再」がついている。これは、三〇年後に同じものを建てた時の建築費という意味だ。つまり、インフレがあれば、価格も高く修正される。従って、これは十分に高い数字というべきだ。

 普通の減価償却(固定資産の価値が毎年減っていくこと)では、インフレによる修正はない。もしインフレがあれば、建築時の四割といっても三〇年後には微々たる金額になってしまう。だから、インフレに慣れた日本では、三〇年もたつと建物を壊すことに痛みを感じないのだ。

 しかし、建物は、十分に修理をすれば新品同様に戻る。このため、少なくともインフレに連動して価格を引き上げる必要がある。これが、省資源時代の中古価値の考え方として望ましいのである。

 以上のように、三〇年後の中古価格は、スケルトンとインフィルで評価方法が異なる。逆にいえば、建物がこの両者を明確に区分したものであることが必要だ。つまり、スケルトン構造であることが、建物譲渡特約を合理化する条件なのである。




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