7 スケルトン利用権とは何か
つくば方式はどうしてうまれた?
ところで、このような画期的な仕組みは、どのようにして生まれたのだろうか。
もちろん、一朝一夕で生まれたわけではない。我々の研究所に限らず、大学や住宅都市整備公団など、いろいろな場所で検討が開始されてから、すでに二〇年以上の歳月が流れている。しかし、一気に研究が進展したのは最近の二年ほどだ。偶然のアイディアにより、いろいろな課題が瞬間に解けていった。 その顛末を少し紹介しよう。
始まりはスケルトン賃貸
ヨーロッパやシンガポールに住めば、賃貸アパートで内装を改造するのはそう珍しいことではない。これに対して、日本では釘一本打つにも不自由だ。スケルトン賃貸は、世界をみれば普通の住宅形式なのに、なぜ日本では普及しないのだろうか。
このような素朴な疑問に答えようと、住宅都市整備公団や住宅供給公社を中心に、スケルトン賃貸を実現しようという動きが起こり、一〇年ほど前から建設が始まった。といっても、ほとんど知っている人はいないかもしれない。公団でも三棟しかないから、それも仕方がないことだ。
しかし、その試行を通じて、スケルトン賃貸の問題は明確になった。
一つは転居時の問題だ。居住者からみると、内装にかけた何百万円という費用を回収できるかという不安があり、一方の大家からみると、次の入居者がみつかるかという不安がある。さらに、そもそも木と紙で一体的に造られた住宅に馴染んだ日本では、スケルトンとインフィルを分離する考え方が根付いていない。例えば、法律や登記では両者の所有者を分ける仕組みがない。さらに、担保になる土地がないから、内装費に対する融資もできないといった、文化に根ざす根本問題も多かった。
スケルトン利用権の構想
このような状況を突破しようと、「スケルトン利用権」の研究に我々が着手したのが、今から一〇年前だ。つまり、スケルトンの家賃を毎月払うのではなく、例えば、三〇年分を一括して支払うことで資産性のある権利にしようという考え方だ。
具体的には次のようなものだ。まず、スケルトンを三〇年間利用する権利を、例えば一五〇〇万円で買う。そこに九〇〇万円程度でインフィルを設置して住む。
途中で売る時は、例えば「残り一二年間の利用権。内装付きで一〇〇〇万円。内装は写真の通り豪華」という広告が出るイメージだ。
こうすれば、居住者が造った内装も無駄にならないし、大家が次の入居者をみつける必要もなくなる。しかも、高騰した日本の住宅価格を下げられるし、同時に良質なスケルトンも建設できる。一石四鳥の発想だった。
もちろん、これを実用化するとなると、内装費に対する融資など、前述した根本問題が立ちふさがる。でも、あと一息だ。何か手はないかと、あれこれ試行錯誤していた時に偶然出会ったのが定期借地権だった。
スケルトンと定期借地権の出会い
定期借地権は、大きな可能性をもっている。しかし、都市住宅の本命であるマンションに適用する場合は、前述したように(一二〇頁『定借の本命はマンションだが、問題が多い』)解決すべき問題が多かった。
つまり、スケルトンも定期借地権も、それぞれ単独では行き詰まっていたのだ。
ところが、この二つが合体するとどうだろう。いろいろな問題がスルスルと解けていく。その過程は感動的でさえあった。その結果生まれたのが、最初の三〇年間は持家、三一年後からはスケルトン賃貸になるという、つくば方式である。
最初の三〇年間を持家とすれば、建築費への融資ができる。転売もできるし、その時は持家として売るから内装にかけた費用も無駄にならない。そして、三一年後からはスケルトン賃貸だ。しかも、所有権が地主に一本化される。持家(区分所有)のままでは、建物修理や建替えの合意形成で立ち往生する危険性が高いが、所有者が一人ならば、これを根本から解決できる。
このようにして、現実の壁を突破し、スケルトン利用権の理念を生かした新方式が実現したのである。加えて、法律の技術(定期借地権)と建築技術(スケルトン)が合体して初めてできたという点で、研究開発としても画期的なことだったのである。
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