第九章 土地提供者のメリットは何か


1 都市に用地は十分ある


地主にとっての魅力

 つくば方式マンションが、都市住宅の新しい時代を築くためには、土地を提供する地主の賛同を得ることが必要だ。さらに、市街地の土地利用の動向の中で、適切な土地を確保できるかどうかも鍵を握るだろう。この点でも、つくば方式、言い換えれば、スケルトン住宅と定期借地権を組み合わせた「スケルトン定借事業」は極めて有望だ。

 つまり、大都市では活用できる土地はたくさんあり、地方都市の駅前では再開発の必要性が高い。そのいずれにも、スケルトン定借事業がマッチしている。

 地主サイドからみても、つくば方式の土地利用は安定した収益が期待でき、固定資産税や相続税の対策ができる点で魅力的な土地活用法といえる。

 土地提供者のメリットについて、詳しくみてみよう。

大都市には適地が多い

 大都市には、つくば方式マンションが普及していくだけの土地があるのだろうか。

 その見通しは明るいといってよい。

 例えば、大都市の住宅地で、八〇〇平方メートルほどの土地を持つ地主がいたとしよう。この程度の広さでも、地価が高いために固定資産税や相続税に苦しむことが少なくない。かといって、土地を売って分譲マンションにするには狭すぎる。建設できる戸数が少ないから、経費や広告費が割高になって分譲業者には手が出しにくい。

 結局、賃貸アパートを建設するのが、今までの相続税対策であり土地活用法だった。しかし、最近、大都市では、賃貸アパートが過剰気味で経営も楽ではない。まして、前述したように、若者人口が減少期に入れば賃貸アパート経営はますます苦しくなる。どうしたらよいのか困っている地主が少なくない。

 しかも、このような中程度の広さの土地は、大都市にはたくさんある。その一部が、つくば方式に提供されるだけでも相当数のマンションが建設できる。前章で紹介した東京圏で続々と登場しているプロジェクトは、ほとんどがこの規模の土地である。大都市に用地が十分にあることが実証されつつあるといってよかろう。



市街地にも広い農地がある

 もう一つの有力な候補は、市街化区域内の農地だ。これは、文字通り市街地にある農地という意味だ。これまでは農地ということで無条件に固定資産税などが安かった。このため、なかなか宅地化が進まなかった。それが、平成三年の法律改正で見直されて、二つのタイプに仕分けされることになった。

 一つは、税金は安いが、その代わりに農地として長期保全する土地だ。もう一つは、いつでも宅地化できるが税金は高い土地だ。このどちらにするかを選択しなければならなくなったのだ。

 その結果、宅地化を選んだ農地は、東京都だけで四〇〇〇ヘクタールにのぼる。その後、現在までに半分近くが宅地化されたが、まだ半分以上は残っている。単純計算でも一〇万戸以上の住宅が建つ計算だ。しかも、千葉、埼玉、神奈川各県を含めると、東京圏の宅地予定の農地は、この何倍もの膨大な広さになる。

 これらの土地は、つくば方式に極めて有望だ。

 そのわけはこうだ。農家系の地主は、一般的に土地を売ることに抵抗感が強い。そのため土地を 手放さない定期借地権が最適だからだ。ただし、これまでの一戸建の定借は、相続税の対策にはなりにくいということで敬遠されている。しかし、つくば方式・スケルトン定借事業ならば、相続問題をかなり解決できる(『3 相続税対策に有効か』参照)。だから、いずれ理解が進めば、大量につくば方式マンションが供給される時代がやってくるかもしれない。

地方都市の駅前商店街

 地方中核都市でも、駅に近い市街地が有力な候補地となっている。

 このような場所に、つくば方式マンションが建設されれば、老後に便利な場所に住みたいという人々に歓迎されるだろう。合理的な住まいを求める若い世代にも、ある程度受け入れられるはずだ。

 地方都市では、地価がそれほど高くないため、価格を分譲マンションの半額にまで下げるのは無理だ。おそらく七〜八割という例が多くなる。それでも、間取りが自由に設計できたり、駅や商店や病院などが近いという付加価値があれば、それなりに成立する可能性は高い。



 一方の地主側からみると、どうだろうか。

 地方では、いま駅前商店街の衰退が問題となっている。車で利用する郊外の大型店に押されて、商売がたちゆかなくなっているのだ。このため、商店主を中心に、何とかしなければという危機感が強い。この解決策として、駅前に住宅を建てることが模索されている。定住人口を増やせば、それなりに買い物客も戻り、駅前商店街復活の糸口になるのではという期待だ。

 そうはいっても、商店主たちは自分の土地を手放したくはない。しかし賃貸マンションでは、定借人口を増やす方法としては力不足だ。この矛盾の中で注目されているのが、つくば方式による住宅供給だ。つまり、建物の一階や二階は商店で、上階をつくば方式マンションとして提供する方式だ。こうすれば、土地を手放すことなく、同時に定住人口を増やすことができる。

 つくば方式が、街づくりを変えるきっかけとなれば、意義は大きいだろう。




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