3 相続税対策に有効か
定借一戸建では相続税対策ができない?
個人地主の場合は、相続税への対策が、土地活用の動機として大きい。スケルトン定借事業のメリットの一つは、この相続税対策にある。
図17は、さまざまな土地経営における相続税を比較したものだ。
まず、一戸建の定期借地権をみてみよう。定期借地権を設定すると、土地の評価額が八割に下がる。それなりに相続税を軽くする効果がある。しかし、定借事業では、普通は入居者から二割ほどの保証金を預かる。保証金とは、借地期間が満了する五〇年後に無利子で返すお金だ。無利子だから、地主が事業資金を求めている場合はメリットだ。しかし、相続税を支払う場合は損になる。
例えば、一億円の保証金を入居者から受け取ったとしよう。税務署は、こう言うはずだ。「今、銀行に一〇〇〇万円預けておけば、五〇年後には利子が積もって一億円になるでしょう。それで入居者に返せますね。だから、一億円のうち借金と認めるのは一〇〇〇万円だけです。残りの九〇〇〇万円は相続財産になります」。
結局、定期借地権を設定して土地の評価を八割に下げながら、二割の保証金を受け取ると、ほとんど一〇割の土地評価と同じになってしまう。だから相続税対策が容易ではない。
アパート経営は親不孝経営?
次に、賃貸マンション経営はどうだろうか。
賃貸マンションでは、建設費を銀行などから借り入れる。すると、この借金分は財産が減るため相続税は大きく下がる。だから、アパート経営の収益がそれほど高くなくても、さかんに行われる土地活用法だった。
しかし、借金は毎年返済するからだんだん減っていく。このため、年とともに相続税はどんどん上がっていく。これじゃ親は長生きができない。早く亡くなった方が子供のためということになる。別名、「親不孝経営?」ともいう。
もっとも、地主さんを弁護すると、普通はこのように長持ちするマンションを建てない。安普請(やすぶしん)のアパートを建てて、一五年程度で壊して建て替えるのだ。そうすれば、いつも借金をしている状態になるから、親が長生きしても大丈夫だ。
言い換えると、現在の相続税制というのは、建物の早期建替え(スクラップ・アンド・ビルド)を助長していることにある。ちなみに、長持ちする賃貸マンションを建てても大丈夫なのは、相続時に売る土地を持っている大地主だけだ。
これからは省資源の時代だ。このような不合理を見直すことが必要だろう。これをするのが、スケルトン定借事業である。
長期にわたり相続税を下げる
まず、つくば方式マンションだけで経営する場合(基本方式)をみてみよう。
土地については、定期借地権によって評価額が八割に下がる。そして、保証金はなしとし、その分、毎月の地代を上げる方式にしよう。そうすれば、八割への減額をそのまま生かせる。
ところで、保証金には、事業資金を得るだけではなく、入居者がトラブルを起こした時の対処資金という目的がある。一般の定借では、入居者が破産でもしたら対処しようがないので保証金を預かる。
これに対して、スケルトン定借事業では、もしトラブルがあっても三〇年後の建物買取価格の調整で対処できる。「本当は八〇〇万円だけれど、トラブル分を差し引いて三〇〇万円ですよ」というわけだ。このように対処できるならば、保証金はなしとした方が合理的な場合が多い。
もっとも土地評価を八割に下げるだけでは、相続税対策としては不十分だ。
これをさらに引き下げるのが、事業の複合化だ。つまり、つくば方式に賃貸マンションなどを複合化して、その部分の建設費については借金するのだ。これにより相続税を下げることができる。そして、三〇年目以降になると、全戸が賃貸マンション経営になるから、そこで相続税をさらに下げることになる。
つまり、複合化によれば、長期間にわたり相続税を軽くすることができる。いわば、親に長生きして欲しい「親孝行経営」だ。長持ちする建物が、地主にとっても不利にならない方式が、初めて成立したわけである。
八割評価は高すぎる
ただし、解決すべき課題もある。
相続税というのは、財産額が多くなればなるほど税率が上がる累進課税だ。このため、最高税率七〇パーセントの大地主になると、つくば方式の事業収入だけでは相続税を賄うには至らない。別に売る土地を用意しないと無理だ。同様に、東京の山の手線内のように地価が高すぎる場所でも難しい。
もともと、土地の値段は、そこから上がる収益額から決まるのが本来のあり方だ。だから、事業収入で相続税が支払えないというのは本当はおかしい。
その一因は、地価が不当に高いことだ。そして、もう一因は、定期借地権が設定された土地の評価が適切でないことだ。三〇年、五〇年という期間は長い。現状の八割評価では高すぎるというのが多くの専門家の意見だ。妥当な水準は六割だろう。
現行の相続税制には、子供は親の資産とは本来関係なく、若い頃はできるだけ平等にやっていこうという崇高な理念がある。それは大切だ。しかし、その結果、建物の早期建替えを助長している面もある。この二つの理念を両立させる方向を目指したい。
つくば方式は現行のままでも、それなりに大きな効果がある方式だが、もし、六割評価が実現すれば、その普及は早いだろう。
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