4 豊かな社会を実現するコンパクト・シティ
スケルトン定借が描くコンパクトな街づくり
さて、以上の課題に応える総合的なビジョンが、コンパクト・シティだ。
その目標をひと言でいえば、高齢期に徒歩で生活できるような「利便性の高いコンパクトな都市づくり」を実現することである。そして、コンパクト化を進めるためには、第一に、郊外開発の抑制と中心市街地の再開発を進めること、第二に、永住できるような市街地マンション像を確立することが必要だ。
つくば方式(スケルトン定借)とは、まさに、第二の課題に応えるものだ。しかも、新しいマンション造りをテコにして、コンパクト・シティを「市場の中で自然に誘導できる」点に大きな意義がある。
コンパクト・シティは机上の空論ではない。すでに、スケルトン定借の定義によって動き始めたビジョンである。さらに、低層階に店舗などを入れた複合開発を行えば、衰退しつつある商店街を再生することもできるだろう。
コンパクト・シティの特徴
コンパクト・シティ像を描いたのが、図20である。その特徴を以下にまとめてみよう。
@きめの細かい高齢者福祉の実現
街がコンパクトならば、数カ所の福祉拠点があるだけで、街全体の高齢者に容易に在宅サービスが提供できる。また、買い物や通院も容易なため快適に暮らせる。郊外に住んだ人々も、必要に応じて、老後にこのような中心街に戻ってくればよい。
前述したように拡散した街での福祉サービスの提供は、税負担が大きすぎて無理であろう。軽い税負担と高齢者福祉を両立させる道は、このような効率的な福祉を可能にする街を実現するしかない。しかも、老人ホームと異なり、街の中にいろいろな世代が交ざり合って住むことができる。老後の住まいのあり方として、最も好ましい姿だろう。
A利用重視型の住まい
住宅の中心をなすのが、つくば方式(スケルトン定借)に代表される所有重視型から利用重視型へと転換した住まいだ。これによって、サラリーマンの所得の範囲内で便利な場所に住むことができる。また、これからの住まいでは、建物は高層ではなく五階程度の中層が望ましい。というのは、万一エレベーターや給水ポンプなどが停止しても、住まいとして機能するからだ。このことは、地震やエネルギー危機などに対処しつつ、将来にわたって繁栄する街を実現するために大切な条件になるだろう。
B郊外に広がる緑地
一方、自然が広がる郊外には、大規模農業を構築することで、農業の再生と食料危機に対処することが考えられる。さらに、これらの緑地は、都市のヒート・アイランド現象(コンクリートなどの蓄熱により気温が上昇すること)を抑えることにも役立つだろう。
C農村集落は親子同居を維持
農村は、今後も親子の同居を維持し、安定した郊外居住を実現していく、これによって、緑に囲まれた住環境を次世代へと継承していくことができる。
またその周囲には、農村と交流しつつ自然環境と共生した住宅に住む田園派の都市住民がいるだろう。
D都市住民を対象としたリゾート
山間部や海岸部には、コンパクト・シティの住民のためにリゾート地を実現する。つくば方式を購入した都市住民ならば、住宅価格が安いため消費に余裕ができる。その浮いた資金がリゾート地に投資されれば、都市部以外の地域の経済もうまく回るだろう。
スケルトン賃貸都市への夢
さて、つくば方式マンションは、このような街づくりによって、将来どのように変貌するのだろうか。
つくば方式は、未来永劫(みらいえいごう)、最適な方法というわけではない。持家から借家に変わるというのは、やはり変則的だ。しかし、この方式の普及によって、将来、一〇〇平方メートル近い良質なスケルトン住宅が、街の中心部にどんどん放出されることになる。その意義は極めて大きい。
現在、都市に良質なスケルトンを建設する方法は、ほとんどないに等しい。賃貸にしろ分譲にしろ、価格の低減が最優先され、狭い面積の建物が建設されやすいからだ。これを繰り返しても、将来の豊かさにはつながらない。
つくば方式は、市場の中で良質なスケルトンの建設を誘導できる点に特徴がある。しかも、それを地価の高い市街地に建設できる点が特徴だ。何十年かすれば、つくば方式で建設されたスケルトン住宅が市街地に蓄積され、それがコンパクト・シティの骨格をなすだろう。人々は、それを安く借りて、間取りを自由に設計して楽しく都市に住むことができる。そして、もしその時に、コンパクト化による老後福祉が実現していれば、老人世帯の不安は解消されるだろう。
成熟社会のゴールは、建物のスクラップ・アンド・ビルドを最小限に抑えつつ、スケルトン構造の建物からなるコンパクト・シティの形成であろう。つまり、「スケルトン賃貸都市」だ。
二〇一〇年までに残された時間はあまりない。郊外へと拡散した街が決定的な破綻を迎える前に、新しい住まいのビジョンへの道筋をつけることが必要だ
本書に多くの方々が賛同してくだされば、それも夢ではないように思われる。
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