3 スプロールした都市の危機を解決する
スプロールした街を見直す
本書の第1部では、郊外に薄く拡散(スプロール)した街が、高齢化によって危機に瀕することを描いた。この危機を救うためには、家族や地域ができるかぎりの役割を果たすことが大切だ。しかし、ここまでみてきたように、その役割には限度があることも事実である。
では、このような危機を根本から救うにはどうしたらよいのだろうか。それには、次の二つの方法がある。
一つは、郊外でも安心して暮らせるように、高齢者の在宅サービスを充実したり、高齢者でも快適に車が運転できるように道路の徹底整備を進めることだ。
もう一つは、スプロール型の都市そのものを見直し、老後に便利な場所に住めるようにすることである。
この二つの方向を検討してみよう。まず前者だが、この方向は現実的ではないかもしれない。というのは、薄く広がった街において、きめ細かい老後の在宅サービスを提供しようとすれば、サービス拠点を数多く設けなければならないからだ。しかも、公的福祉だけではなく、店舗や病院の整備も必要だ。まして、道路の徹底整備も進めるとなると、果たして税負担とのバランスがとれるだろうか。それだけではなく、交通エネルギーを大量に消費する都市になり、エネルギー危機にも脆弱だ。総合的にみて危険な選択といってよい。
やはり、取るべき道は第二の方向だ。それはスプロールした街そのものを見直すという選択である。
便利な場所に住めること
老後に便利な場所に住めば、徒歩で通院や買い物ができるから、心身に負担の少ない安上がりな生活が可能だ。そして、そこに少しの公的福祉サービスが加わるだけで、老後の安心感は確たるものになる。
「地域」と「家族」に多くを期待できない成熟社会においては、このような自助努力と公的福祉のうまい調和が豊かな生活の鍵を握る。それを達成するのが、便利な場所に住むという選択なのである。
もちろん、このことは、老後になったら皆が市街地に移住することを意味する訳ではない。元気なうちは、どこに住んでも楽しいものだ。大切なことは、必要になったら移住を選択できるということなのだ。それが保証されていれば、実際にはそれを実行しなくても、私たちの老後不安は大きく解消される。
言い換えれば、私たちが、住まいの選択において自己決定権を発揮できるようにすること。それが、「便利な場所に住む」ことを提唱する真の目的なのである。
市街地の空洞化を回避する
そのためには、「便利な場所」を都市の中に維持する必要がある。しかし、市街地の空洞化という現象によって、この「便利な場所」が崩壊の危機に瀕している。
ここ一〇年ほどで、日本の街は住宅のスプロールに次いで、店舗のスプロールを引き起こした。拡散した街は、車社会にとって最適だとしても、将来の高齢社会にとっては住みにくい街だ。
知り合いの老夫婦の話を紹介しよう。
この老夫婦は、都市の市街地に住んでいる。子供は、東京に就職して別居しているが、近所に親戚が多いこともあって、それほど不安は感じていなかった。それが、急に暗転したのである。郊外の大型店に押されて、駅前のスーパーが閉店になったためだ。老夫婦は、車の運転をやめていたため、とたんに生活に苦しんでいる。買い物に四〇分ほど歩いていったり、近所の人に頼んだりして何とか凌いで生活しているが、将来に対する不安が尽きないという。
これが、店舗のスプロール化によって現実に進行している問題なのだ。私たちが早急に取り組むべき課題は、このように郊外に拡散した街を根本から見直すことである。
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