おわりに

 本書をまとめている間にも、つくば方式の新規事業を計画中という報告が届いた。また、地方都市の役所においても、街づくり担当者の関心が高まり、何とか実現しようという機運が生まれつつある。支援の輪が大きく広がろうとしているわけで、本当に喜ばしいことだ。

 また、もし本書をお読みになって、つくば方式の家造りにチャレンジしたいとか、土地活用を考えてみたいという方がいらっしゃれば、それは大歓迎だ。資料編に連絡先を紹介したので、参考にしていただければと思う。

 さて、私が、集合住宅の研究を始めたのは、今から二二年前だ。生活者からみて、どのような建築設計が望ましいかという研究であった。この研究は、それなりに実践に移され成果も上げた。しかし、最も基本的な「広い住宅を安価に」という点については、土地問題の前になす術がなかった。

 そこから、私の方向転換が始まった。今から一〇年前のことだ。建築技術だけにとどまらず、経済や法律へと研究の枠を広げたのである。それが結実したのが、「つくば方式」である。とはいえ、研究から実践に移す過程が大変だった。まったく新しい方式であるため引き受ける事業体はなく、個人の力で第一号を実現しなければならなかったからだ。といっても数億円という規模だ。おいそれとできる事業ではない。

 幸運だったのは、同じような問題意識をもつ仲間が大勢いたことだ。第一号の実現に向けて、市民、行政、企業の枠を越えた支援ネットワークが生まれた。昨今、行政改革が話題になっているが、私たちにとっての真の行政改革とは、このような草の根のネットワークが主役になることであった。

 第一号ができると、その後は既成の組織も賛同しやすい。その意味で、第一号の実現こそが重要であった。そして実現した。

 異なる専門分野の連携、研究から実践への展開、そして住宅問題の解決に道筋をつけたという点で、日本不動産学会の業績賞を初め、多くの方々に評価していただいた。さらに、私が所属する建設省でも、本研究の成功を受けて、平成九年度よりマンション問題の総合的な解決をはかるプロジェクトがスタートした。

 いわば順風満帆だ。しかし、このような時にこそ初心が大切だ。それは、「一人一人の生活者の立場から建築を考える」というものだ。これは、恩師の鈴木成文東京大学名誉教授から徹底的にたたき込まれたものであり、私の活動の基盤でもある。

 現在、私の関心は、生活者の一人一人が住宅事業の主役になる時代の展望にある。例えば、住宅生協のようなものが日本で成り立つかどうかだ。つくば方式をテコにすれば、もしかしたらそれが現実になるかもしれない。

 もっとも、そのような時代を担うのは、皆さん一人一人の力だ。その時には、私たち研究者は後方支援集団として二歩も三歩も後退だ。もちろん、何か困ったことがあれば、いつでも呼び出していただければと思う。月光仮面参上!……ちょっと感覚が古いか。



謝辞

 第一号住宅を実現する推進母体となったのは、有志でつくる「つくばハウジング研究会」である。特に、世話人の冨江伸治筑波大学教授の支援がなければ、つくば方式マンションが実現することはなかったろう。恩田光明さん、井口百合香さん、仲沢二三子さんらの市民活動ネットワークの力も大きかった。つくば市役所や茨城県住宅課の皆さんには、活動費の工面や地主探しで大変なご協力をいただいた。

 また、この場をお借りして、一緒に研究開発を進めてきた仲間に感謝を表わしたい。住宅都市整備公団の大西誠さん、住宅金融公庫の伊福澄哉さん、竹井隆人さん、弁護士の藤井範弘さん、建設省建築研究所の佐野勝則君と藤本秀一君、そして共同研究企業の大勢の皆さんである。さらにハウジング・アンド・コミュニティ財団の鎌田宣夫さんには、つくば方式が試行段階から普及段階へと発展するにあたり大変お世話になった。

 恩師の鈴木成文先生、巽和夫先生をはじめ、住宅研究者の長年の蓄積は、本書にまとめるにあたって大変参考になった。そして何よりも感謝したいのは、私たちに賛同して下さり、つくば方式住宅に快く土地を提供して下さった地主の皆さん、新しい住宅造りを一緒に進めてきた居住者の皆さんである。本当に心からお礼を申し上げたい。

 本書をまとめるにあたっては、NHK出版の阿部和暢さん、向坂好生さんに貴重なアドバイスをいただいた。この他にも、大勢の方々の協力によって本書の内容がまとめられた。改めて皆さんに深く感謝する次第である。



 一九九七年一〇月

小林秀樹
(建設省建築研究所住宅計画研究室長)




撮影・小野成視
校正・慶伊信子
編集協力・川嶋治子


小林秀樹――こばやし・ひでき
1954年 新潟県上越市生まれ
1977年 東京大学工学部建築学科卒業
1985年 和設計事務所を経て、東京大学大学院卒業、工学博士
1987年 建設省建築研究所入所 建築計画・住宅問題を専門とする
現 在 同研究所 住宅計画研究室長
主な著書 『集合住宅計画研究史』(共著、日本建築学会編、丸善)、『集住のなわばり学』(彰国社)、『日本の住宅がわかる本』(共著、PHP出版)、『日本における集合住宅の普及過程』(日本住宅総合センター)、『すまう―住行動の心理学』(共著、朝倉書店)





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