第2部 夢の都市永住型マンション


第四章 都市で長所を発揮する「つくば方式」


1 居住者からみた「つくば方式」の魅力

 三つの魅力

 つくば方式(スケルトン型定期借地権マンション)は、高齢化社会、成熟社会で求められる永住型住宅の切り札だ。居住者からみた魅力は、次の三つになる。

(1)間取りが自由に設計できる。
(2)高品質で価格が安い。
(3)近隣コミュニティの質が高まりやすい。
 順に詳しくみてみよう。(地主からみた魅力は、第九章で紹介する)。

間取りが自由設計できる

 マンションといえば出来合いを買うのが普通である。せいぜい壁紙の色が選べるくらいで、将来改造しようにも制約が多くて不自由だ。このような不自由さが、マンションより一戸建を好む理由の一つになっている。

 これに対して、つくば方式の魅力は、マンションでありながら自分の暮らしに合わせて間取りを注文設計できることだ。なぜ、そんなことができるのだろうか。二つの秘密がある。



 一つは、建物の構造にある。つまり、間取り部分(インフィル)が、建物の構造体(スケルトン)から完全に分離され、自由に変えやすいようになっているのだ。これをスケルトン構造の建物という。例えば、従来のマンションでは、室内に動かせない壁や排水パイプがある。これをなくして、家の中はガランドウにできるのが一つの特徴だ。こうしておけば、家の中は自由に設計できるし、将来の改造も容易になる。先の山本さんや山口さんの家も、このようなスケルトン構造の建物だからできたわけだ。実際にどんな構造かは、次の章で紹介しよう。

 もう一つは、建物の工事が始まる前から入居者が決まり、一人一人が設計に参加しながら建物を協同して発注する方式をとることだ。これを「コーポラティブ方式」という。これによって間取りに注文が出せるようになる。

 この二つの秘密によって、マンションの不自由さを解消し、間取りの自由設計を可能にしている。

高品質で価格が安い

 ところで、スケルトン構造の建物は、耐用年数一〇〇年という高い品質をもつため建設費がかかる。分譲マンションでこれを採用できない最大の理由は、この建設費だ。しかし、つくば方式が画期的なところは、むしろ安いことだ。従来の分譲に比べると五〜七割程度になる。六〇〇〇万円のマンションが四〇〇〇万円以下で買えるのだから、これは大きな魅力だ。

 その秘密は、土地を借地にしたところにある。だから地価が高いところほど有効な方法だ(第四章3)。しかも、権利を六〇年として、その期間を二つに分けた点が特徴だ。

@前半の三〇年間は持家
 最初は、建物は持家とする。このため、購入時には、価格が三〇〇〇万円で地代が月々二万円というように、「住宅価格+地代」の支払いになる。もちろん持家だから、途中での転売や、転勤になった時の一時的な賃貸もできる。

A後半の三〇年間は家賃が安い借家
 では、後半はどうなるかというと、三〇年目に建物を地主に売る。そうすると土地も建物も地主に戻るから借地が終了する。地主からみると、三〇年後に土地が戻るから地代を安くできるというわけだ。

 その後は賃貸マンションになる。しかし三〇年後といえば老後だ。その時に高い家賃は負担しにくいだろう。そこで、つくば方式では、建物を売ったお金(例えば八〇〇万円)と、その後の家賃を相殺できる仕組みを導入している。もちろん全額は相殺できないが、安い家賃でその後も安心して住み続けることができる。

B六〇年後は普通の借家として新規契約
 六〇年が過ぎると、家賃相殺のための八〇〇万円もなくなり、いったん契約は終了する。その後は、普通の家賃を払う賃貸マンションとして新規契約することになる。つまり、権利は通算六〇年間で、その間は持家と同じ感覚で住み続けることができる。

 この六〇年という数字は、五〇年以上なら何年でもよい。交渉によって最初に決める。

 地主が強い地域、つまり借地がみつかりにくい地域では五〇年。逆に入居者がみつかりにくい地域では六〇年以上になると予想される。

 権利の流れをまとめたものを資料集に載せている(資料1)。参考にされるとよいだろう。

 このように権利を区切ることで、高品質なマンションを、分譲の場合の五〜七割という格安で購入することができる。

近隣コミュニティの質が高まりやすい

 つくば方式の第三の魅力は、自然に永住意識が高まり、近隣コミュニティの質も高くなりやすいことだ。

 従来のマンションでは居住者の入退去が激しい。その結果、コミュニティも育ちにくく、老後まで住もうと決断するには躊躇する。これに対して、つくば方式は、次の四つの特徴によってコミュニティの質が高まりやすい。

@コーポラティブ方式の効果
 一つは、コーポラティブ方式のプロセス自体にある。つまり、建物工事が始める前から入居者が始まる前から入居者が集まり、みんなで協力して事業を進めていく。このため、自然に交流が生まれやすい。もちろん、それが親密な関係になるか、それともビジネス・ライクな関係になるかは、一人一人の自由だ。しかし、互いの人となりがわかっていることは、居住後の安心感にとって極めて重要だ。その安心感が、コーポラティブ方式では自然に生み出される。

A建物への愛着が深まることの効果
 もう一つは、間取りを注文設計したことによって、自分の家だという愛着が深まることだ。これにより、マンション全体の建物管理への関心も高まる。

B小規模なマンションの効果
  三つ目は、一〇〜三〇戸程度と小さな建物となるため、同じコミュニティに帰属しているという意識が育ちやすいことだ。従来のマンションは戸数が多い。その方が業者の販売効率が良いからだ。しかし、住む側からすると、隣人が誰かわからないという大規模マンションは、住む場所としては不安が残る。理想は二〇戸前後だ。このような小規模マンションを、ユーザー(使用者、居住者)の直接発注で経済的に実現しやすくしたのが、つくば方式の大きな特徴だ。

C投資目的が排除されることの効果
 もう一つ付け加えると、土地は所有権ではないため、利殖目当てで購入しようとする人は、つくば方式には向かない。このような不徳な入居者が自然に排除されることも、良好なコミュニティが生まれるための重要なポイントだ。

 以上の四つの特徴により、コミュニティの質が高まりやすい。

 マンションでは、居住者全員が協力して建物の管理をしていかなければならない。その意味で「質の高いコミュニティ」とは、居住者の一人一人がマンションに愛着をもち、互いの信頼関係をもとに、建物管理に対して責任を分かち合う意識をもつことをさす。これが、必要かつ十分なコミュニティなのだ(注8)

 つくば方式の魅力は、このようなコミュニティの質を自然に育むことにある。


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