2 自慢の住まいを訪問する
若い山本さんの家
四階に山本さんの家がある。夫婦と子供二人。最も若い入居者だ。下の子は、家づくりの最中にはお腹の中にいた。月一回ほど開かれる建設組合の会合のたびにお母さんのお腹が大きくなって、最後は、ご主人が一人で参加していた。赤ちゃんは、ちょうど、この建物と一緒に歴史を歩む。
勤務先は、つくば市内。近くの賃貸の公団に住んでいて、地域情報誌でこの計画を知り応募した。自分たちの収入で買える家となると、かなり郊外に出なければならない。それが、家賃並みの負担で購入できると知り、これしかないと思ったという。
最初の説明会の時の資料を出してみると、この住宅の予想価格は二六〇〇万円。それに借地料が月一万三〇〇〇円である。
説明会に使われた図面は、ほんとに簡単なものだ。つくば方式では、建て主は入居者自身だ。まだ入居者が決まらないこの段階では、簡単な図面しかないし価格も予想でしかない。最終的な設計が決まるのは、入居者の希望を取り入れてから後のことだ。
広さが九〇平方メートル。三面採光で快適。しかも間取りが自由設計できる。格安なのは間違いがない。
吹き抜けのある居間
玄関を入ると廊下がある。左にいくと寝室、右にいくと居間だ。廊下に沿って収納があり、これは山本さんの自慢だ。なんと、廊下からも、裏側にある納戸からも使えるようになっている。出し入れ自由な収納だ。
まず、寝室を見てみよう。一〇畳を超える広さがある。天井が斜めになっているのは、最上階の屋根の形に合わせたためだ。このため天井が高い。廊下に戻って反対側の居間へいく。その途中には、風呂やトイレがある。廊下はゆったりとした広さで狭苦しさがない。
圧巻は、居間に出た瞬間で、これがマンションかと驚く。天井が吹き抜けで夢のような高さ。居間の一角に和室がある。ご主人が凝ったのは、和室のデザインで、飾り棚、雪見障子、襖と手が込んでいる。上を見上げると、高い天井を利用した屋根裏部屋が見える。子供部屋には最適だろう。
台所は、奥さんが凝った場所だ。L型のキッチンにして使いやすくしている。なんといっても窓があって明るいのが良い。眺望も良く、これならば、一戸建より快適だというのも納得できる。
山本さんの将来観
「予想価格より相当高かったのではないですか」
「二〇〇万円ほどプラスになりました。それでも、合計二八〇〇万円だから普通のマンションより安い。自分の暮らしに合うように納得して費用をかけたのですから、満足しています」という返事。
よく雑誌などから取材を受けるそうだが、必ず聞かれることは、「三〇年後に権利が切れますが、将来の不安はありませんか」という質問だそうだ。
つくば方式では、三〇年後に建物を地主に売る。つまり期限付きの持家なのだ。といっても、その後も賃貸として住み続けることができるし、建物を地主に売ったお金で家賃を前払いすることもできる。そうすれば、さらに三〇年間は安い費用で住める。つまり実質の権利は六〇年間だ。山本さんが若いだけに、将来の見通しを質問したくなるのだろう。
「正直なところ、そこから先は考えていません。六〇年あれば十分です。子供は子供で、自分で住まいをみつければよいと思っています」
確かに六〇年という期間は長い。山本さんも九〇歳を超える。将来の予測は難しく、その時点で判断すればよいだろう。将来のことを考えて、現在を我慢するよりも、まず現在の快適な住まいを実現する方が、よっぽど大切ということだ。
それに、通常の分譲マンションでも六〇年もすれば建替えが必要になってくる。その時の大変さに比べれば、賃貸マンションの方が気楽だというのも事実だろう。
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