3 定期借地権とマンションの相性は?
定借の本命はマンションだが、問題が多い
定期借地権というのは、土地の値段が高いところほど効果が大きい。普通の分譲では高くて買えない場所で住宅が買えるようになるからだ。一戸建でも立地が良いところが望ましいが、なんといっても本命は、都心部や駅前のマンションへの応用だ。
もともと、マンションの土地は、大勢の住人の権利が錯綜しているため所有しているという実感がない。この点からも借地が向いていると言える。
さて、定期借地権を使ったマンションは、最近ようやく増えてきたが、それでも伸びは鈍い。というのは、一戸建では定着した一般定期借地権だが、マンションに使った場合は、いろいろと問題があるからだ。
最大の問題は、五〇年後の土地返還がスムーズにいくかどうか不安があることだ。一戸建ならば建物を壊して更地で返すことでスッキリする。しかも、五〇年という期間は、むしろ建物を長持ちさせる方向に誘導するわけで、社会的にも理にかなっている。しかし、マンションでは、建物を壊すといっても容易ではない。それに社会的には一〇〇年住宅が求められている中で、五〇年後に壊すというのは不合理だ(注11)。
定借マンションはスラム化する?
一歩譲って、五〇年後の建物の取り壊しが容易だとしよう。しかし、居住者は、四〇年目くらいから建物の修理にお金を使うことにためらいが出てくるはずだ。マンションが一戸建と違う点は、大多数が合意しないと建物修理が進まないことだ。このため、普通の所有権マンションでも合意形成が大変なのに、取り壊しが近づいたマンションで建物修理の合意ができると考えるのは楽観的すぎる。
最後の一〇年は、かなり建物が荒れた状態になる。最悪のケースでは、建物を放棄する居住者がでて、その後に不法占拠するような者が入り込むことにもなりかねない。
そうなったら、安心して住める住宅ではなくなる。住むのを諦めて転居しても、借地料だけは支払う義務があるから対応に苦慮する。たぶん、相当安い家賃で貸すことになるだろう。入居する所得層はどんどん下がる。もちろんタダ同然でも売れればラッキーだが、買い手はどんな人だろうか。
これは、地主側にすると深刻な問題だ。もしかしたら、マンションがスラム化した混乱の中で土地が戻ってこないかもしれない。そのような不安があるかぎり、定借マンションに土地を提供しにくいのが現状だ。加えて、途中でトラブルを起こした居住者がいた場合にも、他に大勢の居住者がいるから、建物を取り壊して土地を返還させるという罰則が適用できない。解決すべき問題が多いのである。
この問題を早急に解決しないと、定借マンションは定着しない。
マンションには建物譲渡特約が向いている
マンションに適しているのは、一般定期借地権ではなく、建物譲渡特約付き借地権である。すなわち、三〇年後に建物に価格を付けて地主さんに売る仕組みだ。そうすれば、次の点でマンションのスラム化防止とうまく一致する。
第一に、居住者が建物修理に熱心になる。つまり、修理の善し悪しが売る値段を左右するから、みんなで協力して建物を修理していこうという意欲がわく。
第二に、建物を取り壊す必要がないから、一〇〇年住宅を建てることができる。つまり、長持ちする建物を造り、それを三〇年後に地主が受け継いで、末永く有効利用していくという仕組みができる。
最後に、三〇年後から建物所有者が地主一人になるため、大規模な建物修理や、建替えという節目を、全員ではなく、たった一人の決断でできるようになる。これは、現状の分譲マンションの欠点を解消する点で社会的な意義が大きい。
確かに、分譲(建物を区分して所有する)という関係は、新築時や販売する段階では一戸一戸の権利が独立し、融資が個別に受けられるので合理的だ。しかし、老朽化した時の修理や建替えの段階になると、むしろ多人数の合意形成が大変で問題が多い。そろそろこの問題に悩む既存マンションも目立ってきた。そこで新築時は区分所有にするが、三〇年後にはこれを解消するという「建物譲渡特約」の仕組みは、最もマンションに適しているといえる。
さて、建物譲渡特約を実際に使うとなると、三〇年後の建物価格をいくらにするかとか、その後の経営はどうなるかなど、解決すべき問題が多い。これを、地主と居住者のニーズを総合的に検討して解決したのが、つくば方式マンションである。
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