2 住宅が余ってくる時代
二〇一〇年の危機
住宅を買おうとする場合に気になるのは、地価の動向だろう。これを左右するとみられるのが、少子化による人口減少だ。具体的には、どのような影響を及ぼすのだろうか。
建築研究所の先輩で住宅問題を研究している三宅醇氏によると、これまでの宅地価格の推移は、その時代の世帯数の増減と密接な関係があるという。鍵を握るのが、持家を買おうとする三〇歳代から四〇歳代。この年代の世帯数が増えれば地価は上がり、減れば下がる傾向があるという。そして、減る状態をさして「負の需要」と名付けた(注3)。
この関係を将来に伸ばすと、どうなるのだろうか。
持家を買う世代が本格的に減り始めるのは、二〇一〇年頃である。現在、大学を受験する世代が減り始めているが、この波が持家世代にさしかかるのが、その頃と考えればよい。そうなると、多くは少子化によって長男か長女のどちらかで、相続する親の家はどこかにある時代になる。しかも、人口減少で住宅の数は余り始める。
実は、戦後から現代まで、微変動はあっても本格的な世帯数の減少は経験していない。それが、二〇一〇年からは、世帯数が初めて減少に転じる。過去の微変動の時でさえ、地価の変化につながった。とすれば、将来の変化は大きなものになることは想像に難くない。
いったい、どんな変化が予想されるのだろうか。
地価の二極分化
身近な例で、大学の受講者数との比較をしてみよう。現在、子供の人口減の影響が、大学入試に出始めている。受講者数が減るとどうなったか。
残念ながら、大学入試が簡単になったわけではない。難しい大学は相変わらず難しい。その一方で、人気のない大学は定員割れを起こし、大学倒産も現実のものとなりつつある。
おそらく、住宅需要にも、同様の影響が予想される。つまり、地域格差が拡大し、良い宅地は相変わらず人気があり、地価もそれなりの水準を保ち続ける。しかし評価の低い、悪い宅地は極端に人気を失い地価も急落する、という予測である。
もっとも、予測はあくまで予測にすぎない。外国人労働者による人口増があるかもしれないし、大地震などで状況が激変するかもしれない。しかし、どのような状況になっても、これまでのように、地価がどの場所でも同じように高騰する時代が去ったのは確実といってよい。
そして、バブル崩壊後の状況をみると、良い宅地はそれなりの価格を保ち、悪い宅地は急落するという現象が、すでに実際に起きている。どうやら、地価の二極分化という予測は、かなりの確率で当たりそうだ。
老後に住みやすいかどうかが鍵
気になるのは、良い宅地、悪い宅地とは、どんな宅地かであろう。
これを判断するキーワードは、「老後に住みやすい場所か否か」だ。あるいは、現在は違っても、将来、「老後に住みやすい場所になりそうか否か」である。
老後の生活に適した場所であれば、若い頃から住み続けようとする人が多いし、途中から転入したいという人も多い。たまに売家があっても競争者が多く、地価は安定的に推移する。
逆に、老後に住みにくい場所は、いつかは皆が売ろうとする。そして売家があっても、需要は若い人に限られる。ここで働くのが人口減の影響だ。高齢者よりも若い人が少なければ、大きくみた需給バランスは崩れる。地価は下落の一途をたどることになる。二極分化のマイナスの部分は、このような構造で起きる。
老後に住みにくい条件をあげれば、買い物などの日常生活に不便で、地域社会には助け合いの意識もない、そして世代交代がなく沈滞している、というのが典型的マイナス・イメージだ。これが全部当てはまるようだと危険信号だ。早急に地域社会を活性化する運動に着手するか、その見込みがないならば、脱出した方が賢明だ。
これからは、郊外の一戸建住宅地がスラム化するという、予想もしなかった状況が、高齢化と少子化の影響を受けて起きる可能性が少なくないのである。
もちろん、すべての郊外住宅地に危機が訪れるわけではない。数百戸程度のまとまった開発は、店舗や病院が立地することでそれなりの便利さをもち、バスなどの公共交通も整備しやすい。さらに、良好な地域コミュニティの成立の可能性があるし、在宅の福祉サービスが導入されるチャンスも少なくないだろう。
最も危ないのは、せいぜい数十戸単位で郊外に散在するミニ開発である。周囲に店舗や病院がなく、徒歩での生活が成り立ちにくいと、高齢期の不便さが一気に吹き出す。もし将来、エネルギー危機が起こり、自家用車の利用が制限されれば、このような地域のスラム化はほぼ必然といってよいだろう。
土地付きの住宅だから安心だという時代は去ったのである。
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